ハウスメーカー建築士の、施主さんには言えない話

ハウスメーカー設計職を両手くらい渡り歩いた建築士が、ハウスメーカーの内情を書き綴るブログ

ハウスメーカー志望の学生さんへ

 もうすぐ就職戦線がスタートするということで、
ハウスメーカーに採用されやすい学生」
 「ハウスメーカーの勤務形態」
について整理してみます。

 

ハウスメーカーの職種

ハウスメーカーの採用枠は、①営業職、②設計職に二分されます。
①が圧倒的に多く、文系建築系問いません。
②は建築系の大学を卒業し建築士受験資格を満たした学生が採られます。
それから、③営業設計職というのもあります。
建築系・文系、双方から採用します。

 

①営業職~ハウスメーカーの営業職に受かりやすい人の特徴~

これは以前大手ハウスメーカーの系列リフォーム会社が社長が社内でしていた発言ですが、「万人受け、特におばちゃん受けする子を選んでいる」そうです。
幹部が面接に出てくるのは最終面接ですから、人事部で選考された子のうち雑談してみてなんとなく感触でそう思える印象の子を選んでいるんだとか。
確かに入社後は目上のお客さんを相手にどれだけ好感を持たれるか、気に入ってもらうか、が重要で実際それが契約にも関わってきます。
「プランや値段は他社のほうがいいけど、最終的には何カ月も関わってくれた営業担当者の人柄で決めました」という施主さんの話をよく聞きますし、逆に私が設計の打ち合わせをしていて他社のお気に入りの営業の話をされた経験も何回かあります。中には、この営業さんと家を建てたいけどプランは他社の方がいいから他社のプランで出来ますか?と行ってくる施主さんもいました。(他社のプランを出すお客さんには引きましたし良くないことが、そういううまい営業と組むと設計職としても仕事がしやすくていいです。)
学生の皆さんは面接やエントリーシートでは、幅広い年代との交流の経験や自分より年上の中年世代とのエピソードを披露すると良いかもしれませんね。

 

②設計職~お客さんに会うかどうかが重要な分かれ目~

設計職にもいくつかあり、プランニングだけするプラン設計職と、実際に建てる図面をひく実施設計職があります。
更にそれぞれ直接施主さんに会うか会わないかで仕事内容に大きな差があります。まず一週間のリズムが違うため、会う場合は土日は休めなかったり、展示場勤務になったりします。あと勤務地が違います。これは結構重要なので別の項目で書きます。学生さんはよく確認しましょう。


お客さんに会う場合
営業と共に打ち合わせに同席し、作ってきたプランや図面を解説していきます。
直接話が出来る分、変更・修正のスピード感や手応えが感じられるのは良いのですが、施主さんの家づくりに関係ないの世間話や自宅訪問する際の移動時間などのタイムロスが辛くなることもあります。土日は打ち合わせ、月曜は打ち合わせ内容の整理、火曜水曜は休み、木曜金曜で図面の修正・プレゼンシート作成・土日休みの行政やメーカーへの連絡…デスクで仕事が出来ている時間が正味3日しかない訳です。大変です。
また一人でお客さんに会える(出せる)ようになるまでは、実施設計部などに配属され住宅設計の基礎を数年かけて学びます。最終の数年は積算、その後実施設計をやりながら打ち合わせに同席するようになり、最終的にプラン設計となるのが一般的にかなと思います。


会わない場合
ひたすら営業のヒアリング結果に基づいて設計していきます。大体打ち合わせの結果は営業が所定の書類(ヒアリングシート・設計依頼書・要望書など故障は様々です)に書きこんだものを渡され、その情報だけで設計していくことになりますので、営業の丁寧さや性格によって設計の出来る仕事が大きく変わってきます。記入が適当だとお客さんの要望が設計まで伝わってこないため、何回も打ち合わせをしプラン修正することになり非常に面倒です。
会わない場合は、設計職を集めた設計部が本社にあることも多いです。分からないことはすぐに隣の机の先輩に聞けますし、展示場勤務になる心配がなく山手線内あたりへの通勤が確定しているのは大きな大きな利点です。

 

住宅展示場勤務

お客さんがフラッと訪れる場所ですので、営業がいないときには応対をし、打ち合わせに来れば顔を出さなくてはなりません(ここでまたデスクに向かえる時間が減ります…)。
学生の皆さんにはまだ想像もしない部分の心配かもしれませんが勤務地の立地も重要です。住宅展示場というのは東京都郊外や関東の新興住宅地にあるものの方が多いですから。私が車社会の辺鄙な立地の住宅展示場勤務になったとき、駅から遠く近くにコンビニもない場所に都内から電車で通い毎日過ごすことになり相当に辛かったです。


お客さんと会うことが良いかどうか、自分が好きかどうかは入社して数年経たないと判断できないでしょうが、それぞれ一長一短ですね。
どんな流れで分業しているか、お客さんに会うかどうか、勤務地が住宅展示場か設計部かは、必ず人事担当者に質問しましょう。


③営業設計職の曖昧さ

建築系・文系が同じ職種に就くことに違和感がありませんか。
入社後、文系と同じ研修を受けてする仕事ですから、かなりパターン化された設計でOKな仕事なのです。パネルをパズルのように組み立てると建つ自社の住宅を、お客さんに合わせて間取りを考える仕事です。実際”パネルですぐ建つ系”のハウスメーカーだけが③営業設計職という職種を設けています。
多くのハウスメーカーは営業・プラン設計・実施設計と分業しています。自社の仕様を覚える、それだけでもとても難しいからです。最初の記事でも、転職経験のない自社の仕様でしか設計の出来ない設計職の話をしましたが、③営業設計職では本当の専門性は身につかないと私は考えます。

 

建築系
建築系の大学のヒエラルキーは、学生時代から一貫して圧倒的に設計至上主義です。設計職で採用されるにあたっては、アトリエ系設計事務所≧スーパーゼネコン>>その他色々>>>ハウスメーカー、となっていると思います。そしてハウスメーカー内では②設計職>③営業設計職です。
学歴やフォリオ(大学の課題の作品集のことです)や即日設計選考の結果、②設計職で不採用になった学生で「でもどうしても建築に設計の世界にかじりつきたい」という学生が最後の望みをかける職種です。
企業側もそういう状況をよく把握していて、③営業設計職はあくまで新卒の最初のジョブローテーションの一環であり、数年経て経験を積むと②設計職にジョブチェンジ出来ます!営業力のある設計になれる利点があります!などと説明しているようですね。


文系
「文系だけど建築が好き!設計がしたい!ものづくりしたい!なんかオシャレそうじゃん!」という学生がよくいます。
企業側では文系でも設計ができ建築の知識が身に着くと宣伝していますが、前述したようにそれは嘘だと思います。営業としての知識や振る舞いの他に自社仕様も覚えるのは大変です。不動産や土地取引や住宅補助金の話題をすらすら説明できるようになるまでには普通の②営業職でも難しく時間のかかることです。
まずオシャレさを求めるならインテリア系企業とかもっと見るからにオシャレなベンチャ―とかに行ったほうがいいと思いますし、ものづくりならこだわりの建材メーカー(海外キッチンメーカーとか)なんかもお勧めします。


施主のみなさんへ

担当者の名刺に「営業設計職」とか書いてあって、「僕設計も出来るんです」なんて言われると凄く頼もしい専門家のように感じますが、実際そうではありません。
全ての営業設計職がそうだとは言いませんが、初めから営業設計職だったか、元は設計職だったか、など違いはありましょうが、どちらにしろ中途半端なだけです。
勿論、歴うん十年の、自社仕様を知り尽くしたベテラン担当者に当たれば別ですが。
こだわりの家を建てたいとお思いの方にはあまりお勧めできません。

 


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